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「ここは……、亡き師匠の部屋だ」

三蔵の唇から、掠れた抑揚のない声が漏れる。

「さんぞ……」

「師匠は、ここで俺を庇って死んだんだ……」

淡々と語る三蔵に、悟空の方が戸惑ってしまう。

三蔵の中で光明三蔵が特別な位置を占めている事は、悟空も気づいていた。勿論恋愛感情などではないが、それでも自分以外の人間が三蔵の心を占めているという事実は、悟空にとっては気が狂いそうになるくらいの嫉妬心に駆り立てる。本来ならこんなに遠い目をして自分以外の人間に想いを馳せる三蔵に、「他のヤツの事なんで考えんなよ!」と叫んで彼をめちゃくちゃにしてやりたい衝動に駆り立てられるところだろうが。

しかし今回ばかりは、仕方がないのかもしれないと、悟空は湧き上がる嫉妬の炎を何とか鎮めようとして、唇を噛み締める。

師匠を失った場所と、それに付随する忌まわしい記憶。三蔵はここで、過去の自分と向き合うつもりなのだろうか?彼の養い親と、ここでひとり語る事があるのだろうか?

だとしたら……今、自分がここにいるのは邪魔なだけだろう。

悔しいけれど、本当に悔しいけれど。昔のように駄々をこねる訳にもいかない。今の三蔵にとって、それが必要だというのなら。

悟浄あたりが聞いたら「猿も少しは、大人になったのねぇ」と茶化しながらも感慨深げに紅い瞳を細めるかもしれない。悟空は望月の瞳を一瞬悲しげに伏せたが、次の瞬間には、ぱあっといつもの明るい笑顔を三蔵に向けた。

「三蔵、暫くここにいる? だったら俺、風呂沸かしてくるよ。沸いたら呼びにくっからさ」

必要以上に明るく振舞いながらそう言って踵を返そうとした悟空を、思いがけなく三蔵の低い声が呼び止めた。

「いい。ここにいろ」

「三蔵?」

「お前は、ここにいろ」

「でも……邪魔じゃねー?」

「何、気ぃ使ってんだよ。猿のクセに」

「むぅ」

三蔵の鼻で笑うような言葉に、悟空はぷぅっと頬を膨らませる。そうしていると、まだ少年の時の面影が微かに甦る。そんな悟空を三蔵は、感慨深いげに紫暗の瞳を細めてみつめた。

「……さんぞ?」

じっと見つめられて、悟空は居心地悪そうに愛する人を呼ぶ。三蔵を自分がみつめる事は日常茶飯事だが、三蔵が悟空をこんな風にはっきりと傍目にも判るように見つめてくる、という事は殆んどない。それだけに、その強い輝きを秘めた瞳に射竦められて、悟空は金縛りにあったように身動き取れなくなる。

三蔵の瞳の強さと輝きは、いつも三蔵の魂の輝きをそのまま反映したものだから。その瞳に捕らえられて、悟空の身体の芯が急速に熱を帯びてくる。この輝きが全て自分のものだと。この魂も、身体も、自分ひとりのものだと。そして、自分の全ても三蔵ただひとりのものだと、その熱い肉体で確認したいという欲望が悟空の中に生まれてくる。

お互いの身体の一番奥深いところで交じり合って、今確かに生きて愛する人が自分の傍にいると、そしてこれからの人生を共に歩んでいけるのだと。もう決してこの手を離さなくていいのだと、確かめたくなる。

そんな心の奥から湧き上がってくる想いから、悟空は慌てて気を反らそうとした。長安から金山寺までの旅で、三蔵は疲れている。ただでさえ、本調子ではない身体だ。その上場所が悪い。

何といってもここは、三蔵の師匠が暮らし、そして亡くなった場所なのだ。三蔵にしてみれば、禁域とも聖域ともいえる場所であろう。いくら何でもそんな大切な場所で、三蔵を押し倒す訳にはいかない。このままここにいたら、理性がいつまで持つか自信がない。しかし、三蔵は傍にいろという。

(どーすれば、いいんだよぉ)

そんな悟空の葛藤に気づいたのか、三蔵は口元に少々意地の悪い笑みを薄っすらと浮かべると、そっと悟空の頬にその白い手のひらを当てると悟空の唇に己の柔らかい唇を近づけた。

「だ、だ、だ、駄目だよっ、三蔵っ!!」

暫しの間金瞳を大きく見開いたまま、ぽかん、と三蔵の成すがままにされていた悟空は、三蔵の肉厚な唇が自分の唇を掠めた瞬間、はっと我に返り慌てて三蔵の細い肩を掴んで自分から引き離した。

「悟空?」

自分からのくちづけをかわされた事にむっとした三蔵が、紫暗の瞳を物騒に細めながら今度は口元を不機嫌に歪ませて、己を拒む猿の名を呼ぶ。

滅多にない、俺からのキスを拒むとはいい根性してるじゃねーか。

しかし三蔵が不愉快な気持ちそのままに目の前の猿を見据えると、当の悟空は顔を茹ダコのように真っ赤に染めて、頭から湯気までたてている。

「だ、だって、ここ……その……」

言い難そうにもごもごと口ごもる悟空に、彼が言いたい事を察して三蔵の怒りが和らぐ。

「……いいんだよ」

「え?」

きょとん、と大きな金色の瞳に映る己の、いつにない穏やかそうな表情に内心苦笑して、三蔵は自分の肩を掴む悟空の手を、いささか乱暴に振り解いた。

「いいって言ってんだよ!」

「で、でも、三蔵……この部屋……」

「何度も言わせるんじゃねーよっ!」

尚も困惑した表情で三蔵に触れようとはしない悟空に、気恥ずかしさを感じて三蔵はわざと声を荒げて自分の猿を怒鳴りつけた。自分から誘っていると自覚しているだけに、自然と頬が紅に染まる。

「……墓参りした時の報告代わりだ」

「……さんぞ?」

どこか照れたような三蔵の口調に、悟空は不思議そうに三蔵をみつめた。

亡き師がどこに葬られたのか。光明三蔵が亡くなったその日に、金山寺を下りた三蔵は知らない。だから養父の墓前に手を合わせて伝える事が出来ない事を、今ここで彼に伝えたいのだ。

自分は、幸せだと。こんな事を自分が言う日がくるなんて、思ってもみなかったけれど。らしくない事は、判っているけれど。それでも、最後まで自分の事を案じてくれてた人に、伝えたい。

今自分は悟空と共に生きて、幸せだと―――。

今ここで、悟空の腕の中で、そう伝えたいのだと―――。

 

 

 

膝の裏を持ち上げて、長い足が腹に着く位に三蔵の身体を折り曲げる。そしてそっと白い双丘を割ると、悟空は奥まった場所に息づく硬く閉じられた蕾に、優しく舌を這わせた。

「……んっ……」

あらぬ場所に感じる濡れた感触に、三蔵は唇をきゅっと噛み締めて漏れそうになる声を辛うじて殺す。悟空はそれが気に入らないのか、指で蕾を押し広げるとわざと丹念に奥の奥まで舌を差し入れて、三蔵を煽るように唾液を送り込む。

「てめ……いつまでも、しつこくそんなトコ舐めてんじゃ……」

「だって、久し振りなんだよ? いきなりじゃ、三蔵傷つけちゃうじゃん」

悪戯っぽく笑って尚も己の下肢に刺激を送り続ける悟空を、三蔵は恨めしげに潤んだ紫暗の瞳で睨みつける。

確かにこの数ヶ月三蔵の体調が思わしくない事から、ふたりが身体を重ねる事は殆んどといっていい程なかった。ゆるやかな愛撫で悟空が三蔵の熱を解放してやる事はあっても、悟空は決して三蔵と身体を繋げようとはしなかった。それは、自分の為に身体を壊してしまった三蔵に無理をさせてはいけない、という気持ちの表れなのだろうが。

だから、三蔵が悟空をその身に受け入れるのは、本当に久し振りなのだ。それだけに悟空の言うように、充分に身体を慣らさなければ三蔵が傷つくというのは確かなのだが。

それでも、三蔵は悟空に餓えていた。何もせずにただ悟空の腕の中で眠るのも、それはそれで、穏やかな幸福感に満たされた。だがそれと同時に、もっと身体の奥深いところで悟空を感じたい。悟空の手によって、何も判らない程に狂わされて、ただお互いが存在し、求め合っている事だけを感じたい。

これまでは、そんな自分の中の欲望からもわざと目を反らせてきた。けれどもう、そんな必要もない。今だけは、欲望の赴くままに悟空を求めていい筈だから。

そう思って三蔵は早く悟空とひとつになる事を望むが、愛する人の身体を案じる悟空はしつこい程の愛撫を繰り返し、なかなか先に進もうとはしない。

「も……、てめ……やぁ……っ」

熱い舌が体内を掻き回す感触に、三蔵はたまらずに身悶えた。

誰が自分のこんな姿を想像できるだろう。鬼畜生臭坊主と言われた自分がこんな風に身体をひらいて、悟空の口や指先から生み出される愛撫にこんなにもよがり狂わされているなんて。そんなあさましい自分の姿を脳裏に思い浮かべて、三蔵は羞恥のあまり思わず血が滲む程きつく己の唇を噛み締める。

「くぅ……」

「さんぞ?」

微かに苦痛の色が混じった三蔵の声に、悟空がはっと顔を上げた。

「あっ、駄目じゃねーか! 唇切れる程噛んじゃ!」

「う、うるせ……、てめーが、いつまでも、先進まねーから、だろーが……」

上手く息が整わずに、途切れ途切れに呟く三蔵に、悟空は堪らない程の愛しさを覚える。

「……三蔵、俺のこと、欲しい?」

三蔵の唇から滲む血をぺろり、と舐めとって、悟空はお互いの息が感じとれるぎりぎりまで顔を近づけて最愛の人に問う。その言葉に白い身体をピンク色に染めていた三蔵の肢体が、一層艶やかに紅く染まる。

「さんぞ……?」

応えを促すような悟空の問い掛けに、三蔵が微かにこくり、と頷く。

「はやく……てめーを、よこせ」

今にも消え入りそうな声が、かろうじて三蔵の肉厚の唇から漏れた。

「てめーは、俺のモンなんだろ」

顔を見せるのが恥ずかしいのか、三蔵は「痛んだ畳で背中を傷つけないように」と布団代わりに敷かれた自分の法衣に顔を埋める。そんな三蔵の姿に、悟空はぱあっと満面の笑みを浮かべた。

三蔵が焦がれて止まなかった、あのお日様のような笑顔を……。

 

 

「や、や、だ……、もぅ……」

「さんぞ?」

久し振りの行為に硬く閉ざされた蕾をとろとろになるまで、悟空の指と舌で愛されて三蔵の身体は限界を迎えていた。すでに悟空の手によって三蔵自身の熱は何度も解放されていたが、悟空自身をその身に受け入れてはいなかった。悟空にしてみれば、快楽を忘れて怯える三蔵の身体を少しでも慣らせてから……、という思いがあるのだろうが。自分の身体も、心も。欠けた自分の全てを埋め尽くしてくれる悟空を求めて、三蔵は気が狂いそうだった。

悟空が欲しい。心も、身体も、悟空の何もかも。

それを聞いたらきっと悟空は『俺の全ては、三蔵のモンじゃん』と、信じてくれなかったのか、と言いたげな視線をよこすのだろうが。

今はそれを、自分の身体で感じたかった。確かめたかった。

こんなにも狂おしい想いで、何かを求める日が来るとは思ってもみなかった。そして、そんな想いを自分に許せる日が来るなんて。

「ごく……、はやく……」

「三蔵、いいの?」

自分の熱は一度も解放せずに、ただ三蔵の身体を開く事に専念していた悟空が、欲情しきった金瞳を三蔵に向ける。悟空自身、もう限界だった。三蔵を求めて、その熱は痛い程に張り詰めている。泣きそうな顔で、こくり、と小さく頷く三蔵に、たまらない程の愛しさが溢れる。

過ぎた快感に痙攣を起こしかけている三蔵の紅に染まった身体を、悟空はそっとうつ伏せにさせると膝を立たせて受け入れる体勢を取らせる。すると三蔵が法衣をぎゅっと握り締めて、か弱く首を左右に振った。

「三蔵?」

「いや……だ」

喘ぎ続けて掠れた声で、三蔵が小さく呟く。悟空はすぐに、三蔵がこの体位を拒んでいる事に気づいた。以前から三蔵はこの体位で抱かれるのを、嫌がっていたから。

「でも三蔵、この方が三蔵の身体に負担かかんねーよ? だから、我慢して、な?」

あくまでも愛する人の身体を案じてくる悟空に、三蔵は更に首を小さく振る。

「……顔」

「え?」

「顔……、見えねぇだろーが」

「さんぞ……」

思いもかけない三蔵の言葉に、悟空の顔がこれ以上ない程にほころんだ。込みあげてくる愛しさそのままに、ピンク色に染まった三蔵の滑らかな背中にキスを落とす。その刺激にさえ、ぴくり、と身体を振るわせる三蔵の身体を、再び反転させると、汗で額に張り付いた三蔵の前髪をかき上げ、現れた深紅に印に柔らかくくちづける。

「んっ」

「さんぞ」

大きく開いた三蔵の足の間に己の身体を滑り込ませると、小刻みに震える愛しい身体をそっと抱き締める。しっとりと汗に濡れた肌は、闇の中でも輝くばかりの艶やかさを見せていた。

誰よりも、綺麗な三蔵。誰よりも、弱くて。そして誰よりも強い、自分だけの太陽。

「これからも、ずっと一緒だよ?」

荒い息を肩でしながら、焦点の合わぬ瞳を無理矢理悟空に向けようとする三蔵に、悟空はありったけの想いを込めて、囁く。

「嬉しい事も、悲しい事も。全部三蔵と分かち合って、生きてきたい」

一方的に守ったり、守られたりするのではなくて。互いの欠けた物を補いつつ、支えあって生きてゆきたい。

同じ歩幅で歩み、どちらかが遅れた時は、そっと黙って待っていられるような。

養い親と拾われ子から、恋人へ。そして、人生の伴侶へと。

これからの人生を、三蔵と共に歩んでいきたい。

そんな言葉にならぬ悟空の『声』が、三蔵の心に真っ直ぐに伝わってくる。

切なくて、愛しくて、たまらなく愛しくて。今まで自分自身決して認めようとはしなかった想いを、三蔵はやっと己の気持ちとして噛み締める。

「いくよ?」

優しく三蔵の右足を自分の肩に担ぐと、悟空は燃えるような自身を、三蔵の解けて熱を持った秘所にあてがう。「んっ」

次に訪れる衝撃を予想して、怯え竦む三蔵の頬に、額に、無数の羽毛のように柔らかいくつづけをおくる悟空。そのうっとりするような心地よさに、三蔵が身体の力を抜いたのを見計らって、悟空はゆっくりとその欲望を愛する人の最奥目指して進めていく。

「あ、あぁぁっ!」

途端に襲ってくる圧迫感と苦痛に、三蔵は白い喉元を仰け反らせて悲鳴を上げた。

「くっ」

衝撃で身の内にある悟空を締め付けてしまい、その刺激がまた三蔵に跳ね返る。

「さんぞ、大丈夫か?」

きつい締め付けに、ともすれば悟空の理性も切れて暴走寸前だが、苦しげに形の良い眉を顰めて喘ぐ三蔵に、これ以上の苦痛を味あわせたくはないと、悟空はじっと三蔵の身体が馴染むのを待ち、その間も三蔵の身体に負担をかけないよう、そっと優しいキスをおくり続ける。

「……ご、くぅ」

やがて涙で潤んだ紫暗の瞳が、自分を組み敷く男を見上げる。震える指先を伸ばせば、それを優しく掴んだ悟空がそっと自分の背中に、その細い腕を回させる。

「もう、いい?」

耳元で低く囁く悟空の声に、三蔵の身体がぶるり、と震える。そして悟空の背を抱く腕に、微かに力がこもった。それを承諾ととって、悟空は三蔵の腰を掴むといったん納めた己をぎりぎりまで引き、また愛する人の身体の奥まで深く捻り込む。

「あぁっ、ごくっ! やあぁぁ!」

襲いかかる激しい痛みと快感に、三蔵は金糸の髪を振り乱して、悟空の腕の中で悲痛な叫びを上げる。その悲鳴を悟空は己の唇で封じ、怯える舌を優しく吸い上げる。

「ん、んぁ……」

くぐもった三蔵の喘ぎ声と、室内に響く濡れた音が、ふたりの情欲を更に高めていく。

「さんぞ、さんぞぉ」

「は……、あぁ、ご、ごく。ごくぅ」

「ここに、いるよ。三蔵の傍に、いるから」

求める者の声に三蔵は薄っすらと瞼を上げるが、その瞳はぼんやりと悟空の輪郭しか映さない。それでも、己を包み込むぬくもりと体内に確かに感じる悟空の存在に、三蔵は今ひとりではないのだと。何よりも求め続け、失う事を恐れていた存在がすぐ傍にいるのだと、実感できた。

この手が、この存在があったからこそ。あの雨の日の悪夢を、過去として自分の中で昇華する事ができた。もう古傷が痛む事があっても、それに捕われて歩みを止める事はないだろう。

そして、やっと師匠を失った場所に戻る決意がついた。

己の罪と弱さの象徴であるこの場所に。あれから、ずっと止まっていた三蔵の『時』。止まっていた十数年前のあの日から、やっと三蔵の『時間』が動き始めたのだ。

 

「ひっ、あ、あぁぁ、いゃ……もぉ」

「さんぞ……さんぞっ」

激しく突き上げてくる悟空の動きに、三蔵はもう声を抑える事も出来ない。喘ぎ狂いながら、悟空の生み出すリズムについていこうと必死に腰を揺らす。

口元から溢れ出る唾液を、悟空が吸い取る。三蔵の心そのままに、己を離すまいと絡み付いてくる熱い内壁に目が眩みそうだ。三蔵の艶やかな肢体に惑わされ、悟空の限界も近い。

「いい? さんぞ、一緒に……」

「ご、くぅ……」

三蔵のしなやかな腕が、しがみつくように悟空の背を抱く。次の瞬間訪れる衝撃と深い快楽に耐える為に。そんな三蔵の動作のひとつにさえ、たまらない程の愛しさを覚えて悟空はそっと三蔵の身体を抱き直すと、小さく三蔵の紅に染まった耳に囁いた。

「さんぞ、あいしているよ。ずっと、ずっと、傍にいるからね。離れないからね」

たったひとつの、そして何よりも尊い誓いの言葉。そのたどたどしい、悟空の言葉に三蔵の潤んだ瞳から、綺麗な涙が一筋零れる。それをそっと舌で拭うと、悟空は最愛の人の最も奥深いところを激しく突き上げた。

「あっ、あぁぁぁっ!!」

「くぅっ……っ」

最奥に感じる熱い迸り。その衝撃の強さに三蔵の頭は真っ白になり、そのまま己の熱を解放した。

 

『      』

 

意識が暗い淵へと引きずり込まれていく中で、三蔵は自分の唇が無意識のうちにひとつの言葉を紡いだのを、どこか遠い出来事のように感じながら、そのまま深みに沈んでいった。

 

 

 

「さんぞ……」

腕の中でぐったりと意識を失った三蔵を、悟空はこれ以上ない程の、愛しさと幸福を混ぜ合わせた眼差しでみつめる。

意識を飛ばす瞬間、三蔵が呟いてくれたあの一言。

ずっと、ずっと望んでいた。いつか、一度でいいから三蔵に言って欲しかった一言。でもまさか、本当に三蔵の口から聞く事が出来るなんて、思ってもみなかった。

今きっと自分は誰よりも、幸せで蕩けそうな顔をしているだろう、と悟空は思う。

でもかまわない。誰が見ている訳でもないし、例え見られていても、かまわない。

「やっと俺たち、ここまで来れたんだね」

汗ばんだ身体をより深く抱き締め、ほんのりと上気した頬に無数の柔らかなくちづけをおくる。

長い道のりを経て、ようやくここまで来た。

けれど、これが終着点では、ない

。ここから、また三蔵と歩んでいくのだ。

愛する人を肩を並べて。

そして時には、どちらかが先に行ったり、遅れたりする事もあるかもしれない。

それでも、もう焦ったりはしない。

「だって、三蔵が先に行っても俺の事、待っててくれるだろ?」

俺も速く行き過ぎた時は、三蔵のこと、待ってんからな。

安らかな寝息をたて始めた愛する人の、肉厚な唇にそっと自分の唇を触れさせながら、悟空はこれ以上ない程の優しさを滲ませた声で三蔵に語りかける。あいしてる。これからも、ずっと一緒に。ずっと、ずっと一緒に。まるで魔法の呪文のように、繰り返し、繰り返し。愛しい人に伝わるようにと、心から願いながら。

 

おわり

 

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