睦言
汗でしめった前髪をそっとかきあげて、白い額に刻印された真紅の印(チャクラ)に接吻ける。
「さんぞー、好きだよ」
悟空の唇は、額から瞼、そして頬、薄く開かれた唇へと移っていく。
「さんぞー、すっげえ大好き」
そっと、愛しい人の身体を抱きしめる。
自分の腕の中で幼子のように眠る人。その安らかな眠りを妨げないように。最愛の人の温もりをもっと感じられるように。
こんな無防備な寝顔をみせてくれる日がくるなんて・・・、正直、信じられない。
出会った時から、好きだった。大好きだった。
きらきらと輝く俺の太陽。理屈じゃぁない。
いつだったか、三蔵は「お前のは、刷り込みなんだよ」なんて、言ったけどそんなんじゃない。
もし、そうだったら例えば、俺を岩牢から解放してくれたのが悟浄だったりしたら・・・。俺、悟浄にこんな気持ち抱く事になっちまう。それってぜってぇありえない。そうじゃない。
三蔵だから、好きなんだ。三蔵だから、こんなに愛しいんだ。
「・・・ん・・・」
「あ、三蔵、起こしちゃった?」
「・・・耳元でごちゃごちゃ言うな。うるさい」
掠れた声で、三蔵が呟く。
「ごめん。でもさんぞーの事好きだって、言いたかったから・・・」
三蔵は、俺の腕の中で、俺に背を向けるようにもそもそと動く。
「んなもん、聞き飽きた」
「でも、さんぞー、信じてくれないじゃん」
「・・・あれだけ邪険にされて鬱陶しがられて、足蹴にされてそれでも俺の事が好きなんて信じられるかってんだ」
・・・そりゃ、そうだけど。
「でも、三蔵は三蔵だから好きなんだ」
「ああ?」
月明かりの中、紫暗の瞳が俺をみつめる。
「最高僧とか、三蔵がすっげぇきれいとか、俺を拾ってくれたとか、そんなの関係ない。俺は、ただ三蔵が好きなんだ。ありのままの三蔵が好きなんだ。ただ、そこにいてくれるだけで幸せなんだ」
一瞬、三蔵の瞳が大きく見開かれて、そしてぼそっと呟く。
「・・・ふん、趣味わりいな」
「そんな事ないと思うけどな」
「ったく、うるせえんだよ!てめえもさっさと寝ろ!!明日も早いんだ!」
金糸に見え隠れする耳を真っ赤にして、三蔵は俺の腕を邪険に払いのけようとする。けど、俺はその手首をつかんで一層深く三蔵を抱き寄せる。
華奢なやさしい身体。甘い匂い。
「おい、馬鹿猿、力緩めろ!」
腕の中でもがく三蔵の耳元に、俺はささやく。
「だめだよ。こうしてないと三蔵どっか行っちゃうかもしれないじゃん」
ちっ、と腕の中で三蔵が舌打ちをする。
「・・・どこにも、行きゃしねえよ」
「え?」
俺は身体を起こして三蔵の顔を覗き込もうとするけれど、三蔵は無理な姿勢で俺から顔をそらす。
「てめえみてえな馬鹿猿、俺が面倒みなきゃ、誰がみるってんだ」
尊大で、すっげぇ自信過剰な言いぐさ。うん、でもこれが俺の大好きな三蔵だ。
「そうだよ。さんぞーが俺の事拾ったんだから、最後まで責任とらなきゃダメだよ」
そう言って、俺は三蔵の首筋に唇をよせる。
三蔵がふうっとため息をつきながら、俺にそっとその身体をあずけてくれるのを感じながら・・・。
おわり