top of page

 

「・・・んっ・・・」

「三蔵?」

首筋から、薄い皮膚から浮かび上がる鎖骨へと、悟空は三蔵の白い肌をきつく吸い上げ、紅い刻印を刻んでいく。そして微かな痛みに顔を歪める三蔵を宥めるように、鬱血した所有の印にそっと優しく舌を這わせては、慰める。それさえも、元来が敏感な身体らしい三蔵には、辛い刺激となるらしい。

金色の髪を左右に振りながら、ぎゅっと瞳を閉じて唇を噛み締め襲い掛かる快楽を遣り過ごそうとしている。そっと悟空の手が、三蔵の脇腹に触れられる。その瞬間、三蔵の身体が緊張の為に強張るのが、悟空にもはっきりと感じ取れた。

「大丈夫だよ、三蔵」

耳元で低く呟く声にさえ、三蔵の身体は面白い程の反応を示す。そんな三蔵に1番驚いていたのは、三蔵自身だった。

幼少の頃から今までにも、多くの輩が欲望に濡れた手で自分に触れてこようとした。その手に僅かにでも触れられただけで、どうしようもない程の嫌悪感に襲われた。虫唾が走る、という表現はまさにこういう事を言うのだろう、と思う。元々が接触嫌悪でごく普通の触れ合いさえも、忌み嫌う三蔵である。性的接触となれば尚更だ。

悟空を拾ってから、幼い小猿が親の愛情を求めるように、自分とのスキンシップを迫る事が度々あった。それも初めは不快でならなかったが、最後には所詮相手はペットの猿だ、と自分に言い聞かせていつしかそれにも慣れてしまった。

しかし、今自分に触れる悟空の手は、あの時の幼い手ではない。明らかに欲望を感じさせる、『男の手』だ。

判っていた。悟空がそんな目で自分を見ていた事は。ひとりの男として、自分を欲し、そしてそれを押し殺していた事も。そして、三蔵はその悟空の気持ちを見て見ぬ振りをしてきた。

あれは、まだガキなのだ。そんな一人前の男として自分を望む筈がない、と。

まだまだ、悟空は自分が拾った時の小猿のままなのだと。

それなのに、いつの間にこんなに悟空の手は、大きくなったのか。8年前に拾った時握ってやった手は、もっと小さかった。少年であった三蔵の手の中にさえ、すっぽりと収まってしまう程だったのに。今では、三蔵と殆んどかわらない程大きくなった悟空の手。その手が自分の全てを暴こうとしている。

どうして、自分はこんな事を許しているのか。

(あの馬鹿面の、せいだ・・・)

朦朧としてくる意識の中で、三蔵はぼんやりと思う。先程涙で顔をぐちゃぐちゃにして、自分を見下ろしていた悟空。あんな悲しげな猿の顔は、初めてみた。三蔵に叱られたり、仕事を理由に放っておかれた時に見せるような、しょげた顔ではない。切羽詰まった、まるでこの世の終わりのような表情をする悟空に無償に腹が立った。

馬鹿猿は馬鹿猿らしく、いつも能天気な笑顔を自分に向けていればそれでいいものを。悟空のそんな顔は、みたくない。そう思ったら、何故か自分を求めてくる猿の手を拒む事が出来なかった。

(なんで・・・?)

拒絶の言葉を吐けなくて、悟空の腕を受け入れている自分がいる。でも決して流されている訳ではない。確かに、この腕を拒まなかったのは、自分の意思だ・・・。

悟空の愛撫に狂わされていく三蔵が、かろうじて認識できたのはそれだけだった。

 

「い、や・・・やめ、ごくぅ・・・」

三蔵の白い身体に無数の刻印を刻んだ悟空は、紅い花びらに混じって、一際美しく悟空を誘う三蔵の胸の飾りに舌を絡める。柔らかな突起を舌で転がし、強く押しつぶす。それだけで三蔵の身体が、びくん、びくんと反応を返してくれるのがたまらなく嬉しい。

今確かに愛する人が、自分の愛撫に感じてくれている、と。触れられる事を誰よりも厭う人が、自分の手から生み出される快楽に酔ってくれているのだと。拒絶の言葉も、睦言の延長だと悟空にも判る。

誰よりも欲しかった人、触れたかった人、優しく優しく愛したかった人。叶う筈もないと諦めていた夢が、今現実に、確かに自分の腕の中にある。

舌と片方の指でで三蔵の胸を弄りながら、悟空の残ったもう片方の手が三蔵の夜着の裾を割って忍び込む。暫くは汗でしめって吸い付くように手のひらに馴染む、三蔵の太腿の肌触りを味わっていた悟空の手が、明らかに意志を持って内股に滑り込み、やがて熱を帯びた三蔵自身に触れる。

「っ、ごくうっ! 」

流石に驚いた三蔵が上擦った声で制止の悲鳴を上げるが、悟空はそれを無視してゆっくりと己の指を三蔵に絡めて、愛する人を昂ぶらせていく。

「あっ、・・あぁ、ごくっ・・・!」

自分自身でも殆んど施した事のない行為に、三蔵の頭の中が真っ白になる。悟空の愛撫によって高められていた身体は、あっけない程簡単にその熱を解放した。

「やっ、ああぁぁっっ!!」

一際高い三蔵の悲鳴と共に、熱い迸りが悟空の手を濡らす。

(なんで・・・)

どうして、こんな行為を受け入れる事ができる?

達した余韻で、朦朧とする意識の中で三蔵は再び思う。どうして、悟空の手はこんなにも優しい。自分を追い詰める彼の手を、心地よいと思ってしまうのは、どうしてなのだ?身体が感じる快楽が、そう思い込ませているだけなのか?

そうじゃ、ない。今まで自分に触れようとした奴らの手は、どれも忌まわしさとおぞましさしか感じさせなかった。微かに指先が触れるだけでも、吐き気がした。なのに、どうして。同じ欲望を感じさせながら、悟空の手のぬくもりはこんなにも安心できるのか・・・。

生理的なものなのか。紅潮した三蔵の頬を、透明な涙が一筋、つーっと流れ落ちる。潤んだ紫暗の瞳は焦点を結ばず、ぼんやりと宙を彷徨っている。その煽情的な様に、悟空の熱は更に荒れ狂う。

はやく身体を繋げたい。ひとつになりたい。今だ自失状態の三蔵の両足を割って、間に自分の身体を滑り込ませると、愛する人の頬に柔らかなくちづけをひとつ落として、三蔵の吐き出した体液の絡んだ指を、自分を受け入れてくれる奥まった蕾にそっと触れさせる。

「・・・やっ!」

その感触に、意識が浮上したのか三蔵が小さな悲鳴を上げて、微かな嫌悪の色をその秀麗な顔に浮かばせる。

「だいじょうぶ。三蔵を傷つけたくねーだけだから・・・」

悟空は小さく囁くと、もう一度、今度は三蔵の額にくちづけると、ぎゅっとシーツの端を握り締めた三蔵の白い指を一本ずつ丁寧に開いて、空いたもう片方の自分の指と絡ませる。

「辛かったら、思いっきり握り締めていいから」

そう言うと、何度かゆるゆると周囲を撫でていた指をそっと三蔵の中に埋め込んだ。

「ああっ!」

初めて異物を受け入れる苦痛に、三蔵は思わず声を上げる。無意識に絡めた悟空の手をぎゅっと握り締めて、痛みと不快感に堪えようとする。

「さんぞ、ゴメンっ!」

頬に、額に、唇に。無数のキスを落として三蔵を宥めながら、悟空はゆっくりと挿し抜きを繰り返し、少しづつ蕾を拡げていく事に集中する。室内に響く濡れた音に煽られて、三蔵自身また熱を帯びてくる。

悟空辛抱強い愛撫によって、先程のような苦痛の色は大分陰を潜めている。指の数を増やし慎重に三蔵の内部を解しているうちに悟空の指先が、三蔵の一点に触れる。

「あっ、あぁぁっ!」

白い喉元を綺麗に反らせて仰け反る三蔵の痴態に、悟空の劣情が刺激される。このまま貪り尽くして、めちゃくちゃにしたい。自分の腕の中で、ただ自分だけを感じで、思い切り喘いで欲しい。そんな衝動に突き動かされそうになりながら、悟空がぐっと押しとどまろうと、深く息を吐き出す。

まだこのままでは、三蔵を傷つけてしまう。どうしたって受け身の方に負担がかかってしまうのだ。ましてや、三蔵にとっては初めての行為だろう。どれだけ慎重にしても、し過ぎるという事はないのではないか?

ただ快楽を貪りたいのではない。三蔵を愛したいのだ。最愛の人の肌に触れ、身体を繋ぎ、全身で互いの存在を確かめて、自分の言葉では言い表す事のできない想いを、この行為を通じて三蔵に伝えたいのだ。

他人に触れられる事を何よりも厭うこの人が、今こうして自分の手を受け入れてくれているのだから。だから、決して自分の衝動のままに三蔵を傷つけてはいけない。そう思い、悟空は自分の欲望を殺して、三蔵の身体を開く事に専念する。「ご、ごく・・・、も、や・・・」

三蔵の口から、懇願に近い声が漏れる。悟空の執拗なまでの愛撫に、三蔵の理性は殆んど跳んでしまっていた。今の彼に認識できるのは、自分に与えられる快楽と、それが悟空の手から生み出されるという事。

そして・・・その『手』を、とても優しいと自分が感じている、ただそれだけだった。

 

とろとろに溶かした三蔵の蕾から指を抜くと、悟空は自分の手をしっかりと握り締めている三蔵の手を、自分の背中に回した。

「辛かったら、しがみついてな。爪、立ててもいいから」

そう言って潤んだ三蔵の瞳から流れ落ちる涙を自分の舌で、そっと吸い上げると、三蔵を求めて猛り狂う己を愛する人の秘所にあてがい、ゆっくりと身を沈めていく。

「あああっっ!!!」

途端に甲高い三蔵の悲鳴が、部屋中に響き渡る。いくら悟空が三蔵の身体を思ってしつこく慣らしたとはいえ、所詮は受け入れるべき場所ではないのだ。自分の内部を侵食する熱い異物に苦しめられる三蔵に、悟空の胸がずきり、と痛む。「さんぞ・・・」

額に脂汗を浮かべて苦悶の表情できつく目を瞑る三蔵の姿に、少しでも彼の苦痛を和らげようと、三蔵の身体が傷ついていない事を確認すると、このまま暴走したい身体を無理矢理意志の力で押さえ込み、三蔵の顔中に無数のキスの雨を降らせる。そして衝撃で萎縮してしまった三蔵自身に再び指を絡めて、三蔵の意識をそちらに向かせようとする。

「・・・んっ」

痛みの中に微かな快楽の混じった吐息に、悟空は安堵の息をつくと少しづつ強張りの抜けていく三蔵の最奥目指して慎重に身体を進めていく。時間をかけてやっと己の全てを三蔵の身の内に収め、悟空は改めて自分の下で苦しげに喘ぎ、涙で頬を濡らす最愛の人を見下ろす。

こんな三蔵を見たのは、初めてだった。いつも毅然と前を向いている人が。自分の腕の中で、こんなに儚げに、そして情欲を掻き立てずにはいられない程の美しさと色香で、泣き濡れている。

もう、我慢できない。全てが欲しい。もう止める事なんて、できない。

「さんぞ、あいしてる」

弾む息でそう告げると、背中に回された三蔵の腕に、力がこもる。その自分を抱き寄せるかのような仕草に、たまらない程の愛しさが募り三蔵の腰をぐっと掴むと勢いよく身体を引き、また激しく突き上げる。

「やっ、ああっ! ご、ごくっ!! い・・・やぁぁっ!!」

律動に合わせて三蔵の日頃の彼からは想像もできない程の甘い喘ぎが、悟空の鼓膜を揺さぶる。背中に立てられた爪の傷跡の痛みさえも、たまらなく愛しい。

今はただ快楽と、安心感だけを感じて欲しい。

俺は絶対三蔵を傷つけないから。必ず傍にいて、三蔵を守るから。だから、その気持ちを今は感じて。

他の奴らみたいに、三蔵に嫌悪感を与えたりはしないから。俺の手は、三蔵の為だけにあるのだから。

三蔵の身体を包み込む全身でそう訴えながら、やがて絶頂を迎えた悟空は愛する人の中に、想いの丈を吐き出す。その最奥に感じた衝撃に、三蔵もまた短い悲鳴を上げるとその熱を吐き出して、そのままぐったりと悟空の腕の中で意識を手放していった・・・。

 

「さんぞ? 気がついた?」

ぼんやりと霞む視界に、自分を覗き込む悟空の顔が入ってくる。暫く朦朧とした頭で記憶の彼方にある夕べの出来事を思い起こし、三蔵はやっと悟空に抱かれた自分が、彼の腕の中で気を失っていた事に気がついた。

「三蔵、どっか辛いとこ、ないか?」

心配そうに、そして愛しげに慈しむように見守る金色の瞳。

いつの間にこの猿は、こんな眼差しをするようになったのか。あの、雛鳥が親を求めて追いすがるような小猿はどこへ行ったのか?

行為の後の重い身体に再び意識ごと沈みそうになりながら、三蔵はぼんやりとそんな事を考える。

どうして、まるで見も知らぬ男のような『大人』の顔をするのか?

そして・・・どうして、まるで宝物にでも触れるかのように優しく自分の身体を抱き締める悟空の手が、心地よいと感じてしまうのか?

こんな自分は知らない。

ただ自分は、あんな悲しげな猿の顔を見るのが鬱陶しくて、それで悟空の腕を受け入れたに過ぎないのに・・・。

―――どうして、こんなに動揺するのか。『大人の男』をした悟空に、その手の優しさに。なんでこんなに戸惑わなくてはいけないのか。

そして・・・そんな自分の気持ちを『怖い』と思わなくては、いけないのか?

「さんぞ?」

返答のない三蔵に不安を覚えて、悟空の表情が曇る。

ダメだ。これ以上悟空の顔を見ていられない。訳の判らない感情に支配されそうな予感に、三蔵は慄いた。

「・・・っう!」

悟空に貪られて軋む身体を無理矢理起こすと、悟空の腕から這うようにすり抜ける。

「さん・・・」

思わず呼び止める悟空の声に、一瞬だけ紫暗と金の瞳が交差する。三蔵は微かに苦い表情を青褪めた面に浮かべると、脱ぎ散らかした夜着を無造作に身に纏い、一言も発しないまま痛む身体を引きずって、大きく目を見開いて愛する人の姿を追い求めるする悟空の視線から逃げるように背を向け、静かに寝室から出て行った。

 

 

 

 

背後から包み込んでくるぬくもりに、三蔵は初めて悟空に抱かれた時の事をぼんやりと思い出していた。

知らないいうちに、大人になった悟空を受け入れる心の準備が出来ていなくて。いつの間にか自分を追い越していく悟空が怖くて。自分の後を追いかけてきた悟空が、自分の前を歩いていくのが寂しくて。そして何よりも忌まわしい筈の、自分に触れてくる欲望に濡れた手が、何故か悟空の手だけは優しいと、愛しいと思えて仕方がなくて。そんな自分の気持ちが、自分のものとはとても思えなくて。

あれ以来自分を求めてくる悟空を、頑なに拒んできた。だが、例え大人になっても『悟空』は『悟空』に変りないのだと。自分ひとりを愛し、惜しみなくぬくもりを与えようとする自分だけの猿に違いないのだと。怯え、警戒する必要など、どこにもないという事に、三蔵はやっと気づいた。

ここまでくるのに、どれだけの時間を費やした事だろう。

無理矢理抱いて愛する人を傷つけてしまったと、あの日以来神妙にもペットに徹しようと努めていた悟空。これ以上三蔵を傷つけないために、そしてどんなに欲望を押さえるのが苦しくても、それでも愛する人の傍にいる為に、2度と三蔵には触れまいと固く自分を戒めてきた悟空。

自分を求める悟空の手が優しいと感じるのは、当たり前だったのだ。誰よりも他ならぬ三蔵自身が、この手のぬくもりをずっと無意識のうちに求めていたのだから。

(湧いてんな。こんな馬鹿猿相手に・・・)

そんな自分が、それ程嫌でもない。そんな事実に三蔵は微かに口元に苦笑を浮かべると、今だに穏やかな寝息をたてている悟空の胸に自分の背を預ける。

出発は、一日延期だ。今日はこのままゆっくりと悟空の腕の中で、眠っていてもいい。身体はまだ休息を求めているし、猿の腕の中はあたたかいから。

まだ目覚めている時の悟空に素直に寄り添う事は、己の高過ぎるプライドが許さないが。毛布代わりに自分を温めている、人よりも体温の高い猿は当分夢の中だ。

そう自分に言い訳をすると三蔵は、眠りの中でさえに自分のぬくもりを分け与えようと、自分を深く抱きしめる悟空の腕の中で、満足そうに息を吐くと静かに瞼を閉じた。

 

                                                                     おわり

 

キリバンお題『同人誌「WIBG」に出てくる、某エピソードを膨らませて』

© 2023 by My site name. Proudly created with Wix.com

  • Facebook Classic
  • Twitter Classic
  • Google Classic
  • RSS Classic
bottom of page