「あっ、……やぁぁっ、あぁぁっ!」
「さ、さんぞっ、さんぞっ……!!」
三蔵のキツイ締め付けに耐え切れず、悟空は愛する人の身体の奥深く欲望を吐き出した。その衝撃に、三蔵も華奢な身体を仰け反らせて、己の熱を解放する。
荒い息を吐きながら悟空は、三蔵の身体に負担をかけないようにと、ゆっくりと自身を三蔵の身の内から引く。「あぁ……」
その刺激に小さく喉元を仰け反らせた三蔵の口から、ため息のような喘ぎが漏れる。
「さんぞ、大丈夫? きつかった?」
悟空の問いかけにも、射精の余韻で放心状態の三蔵に応えるだけの力はない。先ほどまで悟空の背中にしがみついて爪あとを残した三蔵の細い腕も、力なくシーツの上に投げ出されていた。
悟空は三蔵の薄紅に染まった頬を伝う、幾筋もの涙をそっと舌で吸い取ると、そのまま身体をずらして、やはりぐったりと投げ出されている細い両足を優しく開いて、今まで自分を受け入れてくれていた三蔵の蕾を指先でそっと触れる。「あ……」
まだ敏感なそこは赤く充血して、受け止めきれなかった悟空の残滓がとろとろと、内股を伝って流れていく。上気してピンク色に染まった肌を伝う、白い精のコントラストはとても煽情的で、悟空の劣情をたちまち刺激する。
悟空は顔を近づけると、舌先を出して己の残滓を丁重に舐め清めていく。
「やっ、てめっ何して……」
内股を這う悟空の熱い舌の感触に、達したばかりの身体は簡単に火が点いてしまう。何とか悟空の動きを止めさせようと、三蔵は力の入らない腕を伸ばして悟空の頭を押さえようとするが。悟空の舌先がまだ充血してひくつく己の蕾に触れると、指先に触れた見た目より柔らかな茶色の髪を思わず掴んでしまう。
「ご、ごくっ! てめ、ドコ舐めて……」
「綺麗にしてあげるだけだよ? 大丈夫だから」
「そ、そんなトコ、汚ねぇ、だろ……が」
「さんぞの身体の中で、汚ねぇトコなんて、どこにもねえよ。みんな、みんな凄く綺麗」
そう言うと清めるだけと言いながら、悟空はそっと指で蕾を押し開いて熱い舌を差し入れる。
「やっ、やぁぁっ!」
己の秘所を舌で弄られるという初めての感覚に、三蔵は激しい羞恥心に襲われて涙をぽろぽろ零しながら、頭を左右に振ってなんとか未知の感覚から逃れようとする。
実際悟空と身体を重ねるのは、これでまだ二度目だ。身体が感じる快楽に、心の方がついていかない。
「ご、ごくっ!」
急速に快楽の渦に引き込まれて行く。身体がコントロールできずに三蔵の意志を無視して暴走しようとする。
(……そうか)
真っ白になった頭で三蔵は、ぼんやりと思う。この行為を拒んできた、もうひとつの理由。
心と身体が切り離されて、どこかに流されて行くような不安。悟空の愛撫に狂わされて、何も判らなくなってしまい、自分自身を見失ってしまいそうで。一度自分を見失ったら、今まで虚勢を張って隠し続けてきた自分の弱い本性が、容赦なく顔を出す。それが堪らなく恐ろしいから。だから、悟空に抱かれるのを拒んできた。その腕に抱かれるのを、恐れていた。「見せて。俺だけに、さんぞの全て」
しかしそんな三蔵の想いとは正反対に、悟空は三蔵の弱いところも、汚いところも全てを見たいと望む。誰も知らない三蔵の全て。他の人間には決して見せない三蔵の素顔を、自分だけに見せて欲しいから。ありのままの三蔵を、心も身体も愛しているから。
だから自分の腕の中で、今だけは何もかもから解き放たれて、本能のままに流されて、委ねて欲しい。今の三蔵にはまだ、快楽の中で我を失っているときしか、そうやって悟空には判らない何かで雁字搦めに縛り付けている自分を、解放する事はできないだろうから。
身の内を舌で愛撫される感覚に、すすり泣くように喘ぐ三蔵の姿に、悟空は眩暈を覚える。あまりにも綺麗で、煽情的で。もっともっと三蔵を喘がせたくて、悟空はすでに溶けきっている蕾に、いきなり2本の指を突き立てると内部を思いのままに蹂躙する。
「あぁぁぁっ!!」
いきなり襲い掛かる衝撃に、三蔵は甲高い悲鳴を上げるが思いの外、痛みは感じない。一度悟空を受け入れ緩んだそこは、さしたる抵抗もなく悟空の指を受け入れる。
「さんぞ、すっげー熱い」
「や……あぁ」
燃えるような熱さの内壁が、悟空の指をきゅっと締め上げる。内部に残る悟空の残滓が、指をくゆらす度に濡れた音をたてて、それが一層ふたりの熱を煽る。
「ご、ごく……、やっ、ああぁぁっ!」
ある一点に悟空の指先が触れると、三蔵は今まで聞いた事もないくらいの甘い声を上げて、白い喉元を仰け反らせた。「ここ? さんぞ、ここ気持ちいいの?」
「ひっ、やめっ……やぁぁ」
見つけたポイントをしつこく指の腹で擦り上げられると、三蔵はぱさぱさと金糸の髪を振り乱しながら、許しを乞うように悟空の腕に縋りつく。踏み止まらなくてはいけない、と理性がどこかで三蔵に告げるが、悟空に与えられる快楽に抗う事はもう出来ない。
悟空の指や舌が生み出す快楽も、悟空の素肌のぬくもりも、自分を抱き締める腕の強さも。こんなにも心地良過ぎて。何もかも忘れて、全てを委ねてしまいたい誘惑が三蔵を襲う。そんな三蔵の心をゆっくりと溶かすかのように、悟空はすでに溶けきった三蔵の身体を尚も優しい愛撫で追い上げていった。
「も、もぉ……」
涙で濡れた紫暗の瞳が、縋るように悟空を見上げる。
「もう、限界?」
耳朶を甘噛みしながら、悟空が低い声で囁くとそれだけ感じてしまった三蔵の内部が、きつく悟空の指を締め付ける。その刺激に、ひくりと喉を鳴らして三蔵は悟空の問いに微かに首を縦に振った。
悟空自身、痛い程にその欲望は張り詰めて愛する人の体内に抱かれる事を切望していた。三蔵の太腿の裏に手を掛けると、その細い両足を自分の肩に担ぐようにして受け入れる体勢を取らせる。そしてすでに一度悟空を受け入れて蕩けきっている三蔵の蕾にそっと自身をあてがうと、そのまま一気に最奥まで貫いた。
「あぁぁぁ――っ!!」
襲い掛かる激しい圧迫感と、電撃のように身体中を突き抜ける快感に三蔵は甲高い悲鳴を上げて、華奢な身体を仰け反らせた。本能的に逃げを打とうとする細腰を大きな手でしっかりと掴むと、悟空は三蔵の息が整うのも待たずに動き始める。
「やっ、ごくっ、まだ……、やあぁっ!!」
三蔵の制止の声を無視して、悟空は三蔵の身のうちに収めた己を引き抜き、また激しく打ち付ける。
「ひっ、あぁぁっ! ご、ごく……ああっ」
身体中が悟空で満たされる、苦しくて、それでいて甘美な感覚に、三蔵の脳裏から理性も羞恥心も霧散する。
頭の中が真っ白になって、何も考えられなくて。ただ悟空が自分を抱いている、それだけしか理解できなくて。悟空の手でこんなにも流されてしまっているのに、それと同時に悟空によって繋ぎ留められていると感じる、不思議な安堵感。
「ご、くぅ」
「さんぞ、すき。だいすき。あいしてる」
激しく愛する人の身体を揺さぶりながら、悟空がその荒々しい動きには似つかわしくない程優しい声で三蔵に囁き続ける。どんなに三蔵が流されそうになっても、俺が抱き締めているから。俺は三蔵の傍から、決して離れないから。だから安心して、すべてを曝け出して。そんな願いと祈りを込めて、悟空は三蔵の快楽に幼い身体を絶頂へと導く。
そんな悟空の心の声が届いたのか、三蔵は震える白い腕を上げると悟空の首に回して小猿を抱き寄せ、そっとそのくちびるに己のくちびるを触れさせた。
それは三蔵から悟空への、初めてのくちづけだった。
「……ん」
「さんぞ、目ぇ覚めた?」
傍にある温かなぬくもりに無意識のうちに擦り寄った三蔵は、聞きなれた己のペットの声にうっすらと重い瞼を上げる。「……さる?」
「おはよー。さんぞう」
向日葵のような笑顔を浮べながら悟空は三蔵の白い頬に、ちゅっとキスをする。素肌に感じる悟空の体温と、じっとしている事さえ辛く感じる重い身体。そしてあらぬ所に感じる鈍い痛みに、次の瞬間三蔵の脳裏に昨夜の己の痴態がフラッシュバックされた。
「……なっ」
そのあまりの恥ずかしさに、思わず悟空の頭をどついてやりたい衝動に襲われるが、今の三蔵にはハリセンを持ち上げる事すら正直難儀だ。このままもう一度深い眠りに落ちてしまいそうなほど、三蔵の身体は休息を求めている。
そんな三蔵の心中など判りもしないお猿は、愛する人と過ごした甘い夜の記憶にとろとろに蕩けそうな笑顔を三蔵に向ける。
あれから何度も何度も身体を重ね、愛する人の体内に想いの丈を注ぎ込み、そして最後には三蔵も素直に自分を求めてくれた。意識を飛ばして深い眠りに引き込まれた後も、その体温を求めるかのように悟空に身体を委ねてくれていた。疲れの色を濃く浮べた端正な顔にも、穏やかで無心な表情が浮かんでいて。身体だけでなく、心も悟空に預けてくれようとしているのだろうか。だとしたら。
(すっげー嬉しい)
悟空は見えない尻尾をぱたぱたと振りながら、昨夜の男臭さはどこへ行ったのか、愛する人の滑らかな頬にすりすりと自分の頬を摺り寄せて甘える。
「さんぞ、経文探しの旅に行くんなら、俺も一緒だからな」
「……」
「約束したんだからな。俺、一生かけてさんぞに信じてもらうんだからって」
普段なら「ざけんじゃねえ。何寝言いってやがる」と怒鳴りつけて、ハリセンを食らわせてやるところだが。
もう自分は『三蔵法師』ではない。その名を自戒として、自分に持てる以上の強さを強要する必要はないのかもしれない。……そう、少なくとも悟空の前では。
そんな今まで思ってもみなかった考えが脳裏に浮かぶのは、一晩中悟空に愛されて疲れきっているせいだろうか。寝不足で思考力が鈍っているから、だからそんな埒もない事を思ってしまうのかもしれない。ぼんやりとそう思いながら、三蔵は小さくため息をつくと、いささか投げ遣りに――けれど、どこか照れた様子でぼそり、と呟いた。
「……好きにしろ」
「うん、好きにする! さんぞ、大好きっ!」
愛しい人からの、何よりも嬉しい一言にふにゃ、と相好を崩した悟空はまだ少し汗で湿っている前髪をかき上げて、白い額にくちづけを落とそうとする。……が。
「あぁぁぁ―――っ!?」
朝まだ早い長安の寺院に、小猿の喉が裂けんばかりの絶叫が木霊した。
「観世音菩薩、何をしていらっしゃるのですか?」
大量の書類を抱えた二郎神が、難しい顔をして黒髪美人の横に立つ。
「ああ?」
「金蝉童子様……、玄奘三蔵のチャクラを取ったり付けたりなさって」
アレは取り外しのできる玩具じゃないでしょうが、とぶつぶつ零す頭の固い側近に、観世音菩薩はくるり、と顔だけ向けると、茶目っ気たっぷりにウィンクで応えてみせた。
「気分だよ、気分」
「……」
相変わらずな上司の言い様に、二郎神は、がっくりと肩を落として「はぁぁ」と深くため息をついた。
持病の胃痛が再発したのだろうか、胃の辺りがキリキリ痛む。天界人の自分が胃痛持ちだなんて、下界の人間達が知ったら何と思うだろうか。しかしこの上司に仕えて数百年。日毎に常備薬が増えていく事だけは確かだ。二郎神はいささか同情の眼差しでもって、蓮池に映し出された玄奘三蔵――嘗ての金蝉童子――の姿を見遣る。
仏のその日の気分で、取ったり付けられたりしたら、三蔵もたまったものではないだろう。第一そんな事が度々あっては、善良な仏教徒達が慌てふためくのは目に見えている。いささか悪趣味ではないか、と非難の色を込めた視線をこの破天荒な仏に送ると、菩薩は、ふんと鼻をならして再び蓮池に映る愛しい甥と小猿の姿に目を向ける。
「あれくらいのショックがねえと、素直になれんヤツだろーが」
天上界にいた頃も素直とはいい難い性格の甥ではあったが、箱入りの世間知らずだった分まだ今よりは可愛かったのかもしれん、と菩薩はひとりごちる。
「たまには自分の気持ちに、素直に流されてみた方がいいんだよ。あんなピリピリと神経張り詰めてたんじゃ、息が詰まるだろーが」
頑ななまでに他人との関わりを拒んで、自分ひとりで生きていこうとする三蔵。けれども自分ひとりの力だけで生きていける程、人生簡単なものじゃないし。せっかく自分の全てをありのままに受け入れて、愛してくれる存在がすぐ傍にいるのだから。
「時には他人に寄りかかる事も必要って事を、三蔵も覚えた方がいいんだよ」
見ている俺も、楽しいしな。そう言って菩薩の口元に笑みは、どこか優しさと愛しさに溢れていて。
そんな上司の言葉に「はぁ」と、完全に納得いかないまでも軽く相槌を打つと、二郎神は再び視線を澱みのない清らかな水面に向ける。
何やら叫んでぺち、ぺちっと力の篭らぬハリセンで悟空の頭を叩く三蔵と、そんな三蔵の細腰に抱きついて
「今更、そんな照れなくてもいいじゃん。昨夜はあんなに素直に、俺に抱かれてくれたんだから」とじゃれつく一匹の小猿。そんなふたりの姿が、小さくさざ波の合間に揺れていた。
おわり