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「さんぞっ!?」

宝物殿に向かう途中の回廊を曲がった所で、悟空は向こうから歩いてくる黄金の人影をみつけて、喜声を上げた。

「悟空?」

明かり取りの小窓から入り込む月の光の中、三蔵の白い法衣が血に染まっているのが悟空の目に飛び込んだ。

「さんぞ、さんぞ、怪我、ねえか?」

物凄い勢いで走りより、三蔵の身体をペタペタと触って飼い主の身に傷ひとつでもないかを確かめようとする小猿の頭上に、ハリセンの歯切れのよい音が炸裂した。

スパン、スパパパパ―――ン!!

「・・・あぅ・・・」

「鬱陶しい、ベタベタ触るんじゃねーよ」

「だって、さんぞ、怪我してねーかと」

悟空は大きな満月のような瞳を潤ませながら、冷たい飼い主を恨めしげに見上げる。これだけのハリセンパワーなら、心配する必要もないのかもしれないが・・・。

「あんな連中相手に、怪我なんかすっかよ。これは奴らの返り血浴びたんだよ。この馬鹿猿」

「・・・でも、でも、さんぞーが心配だったんだもん」

三蔵の法衣の端を握り締めたまま、口を尖らせて言う悟空の手を、三蔵は鬱陶し気に振り払う。

「それが、大きなお世話だってんだよ。この馬鹿猿」

「っなんでだよ!?」

冷めた眼差しで吐き捨てるように言った三蔵の言葉に、悟空はいつにない程の激しい憤りを感じて、血に塗れたままの飼い主に食いつく。酷く自分の三蔵への愛情を、踏み躙られた気分になったのだ。

「なんで三蔵の事心配しちゃ、いけねーんだよ! 大好きな人の事、心配すんのは当たり前だろ? さんぞー、どうして俺の気持ち判ってくんねーんだよ!?」

「・・・猿?」

物凄い剣幕で噛み付いてくるペットに、三蔵は珍しく戸惑いの色を見せて、自分の袖をぐいぐいと引っ張りながら詰め寄ってくる小猿を困惑した表情で見下ろした。

「今は・・・『愛してる』ってのを信じてくんなくても、いいからさ。せめて、俺が三蔵の事マジに心配してる事だけは、信じてよ。そりゃ、三蔵強ぇから、あんな盗賊なんかどうって事ねえのは、判っているけど」

話している内に感情が高ぶってきたのか、悟空の大きな金色の瞳からは次から次へと大粒の涙がぽろぽろと零れては、頬を伝う。

「でも、それでも心配なんだよ。三蔵に怪我のひとつでもあったら、三蔵が少しでも痛い思いとかしたら、俺、そう思っただけで、たまんねーんだよっ!!」

「・・・悟空」

「三蔵の事、失うの、すっげー怖いんだもん」

そう呟くと、悟空は三蔵の法衣の袖端をきゅっと握り締める。小刻みに震える指先から、悟空の怯えが伝わってきた。

「さんぞの事、愛してるから・・・」

「・・・悟空」

三蔵は涙で顔をぐしゃぐしゃにして自分に訴えてくる小猿から、そっと目をそらした。

「さんぞ・・・?」

どうしてこの猿は、こんなにも真っ直ぐな瞳で自分を見つめる事ができるのだろう。どうして、こんなにも臆面もなく『愛している』なんて公言し、自分を失うのが怖いのだと堂々と口にできるのだろうか。

三蔵は悟空のストレートな想いに、どう応えればいいのかが判らない。今までこんな風に一直線に三蔵に感情をぶつけてきた人間はいなかった。

悟空と出会ってからこの煩いペットに振り回されて、それでもかなり感情を表に出すようになってきた三蔵だが、それでも元々が他人との関わりが苦手な性分なのだ。だから悟空の包み隠す事を知らない、正直過ぎる程の愛情表現をどう受け止めればいいのか、戸惑ってしまう。悟空の『愛してる』という言葉に『わかってる』とさえ言えない。

もし悟空の気持ちを少しでも『信じている』なんて言ったら、あの猿はどんな顔をするだろう。きっとあの太陽のように眩しい笑顔を、惜しげもなく自分に向けるだろう。

三蔵は、あの悟空の笑顔が苦手なのだ。曇りの無い、真昼の日差しのような悟空の笑顔。これについほだされてしまう自分がいる。今まで自分に向けられた眼差しはいつも、好色に満ちたものや、嫉妬、羨望を露わにしたものばかりで。こんな風に熱く、それでいて慈しむような眼差しを自分に送ってくるのは、この猿だけだった。この笑顔に、眼差しに、ポーカーフェイスで対抗してきたが。それでもこの小猿は天性のそれを武器に、どんどん自分の中に入り込んで来てしまう。

守らなくてもいいものが欲しいとは思っていたが。あの馬鹿は命がけで自分を守ろうとする。それが堪らない。

守られる事に慣れて弱くなってしまったら。心も身体も弱くなってしまったら。今度こそ失う事に耐え切れない。だから悟空の想いを信じずにいた、信じないようにしていた。そして、思い込もうとしていた。『あれ』は一時の気の迷いなんだと。そして自分もただ気まぐれでそれに付き合っているにすぎないのだと。

 

失うのが怖いのは、俺も悟空も一緒なのか。

 

三蔵がそっと心の中で呟いたその瞬間。目の前の悟空の瞳が、これ以上ない程大きく見開かれた。

「さんぞっ、危ねぇ!!」

叫びと共に悟空は三蔵の身体を抱き込み、そのまま床に倒れ込む。

「・・・っ!!」

悟空が三蔵の上に覆い被さる形で、床に転がった。倒れ込んだ瞬間背中を打った三蔵が小さな呻き声を上げる。悟空がそのままずしりと、三蔵の身体に体重をかけてくる。

「ってぇな。なんだ、いきなり」

突然の悟空の行動に額に青筋をたてた三蔵は、自分に乗っかったまま動こうとはしない小猿の身体を膝で蹴り飛ばす。「思いんだよ。どけ、この馬鹿猿っ!」

しかしそれに対する応えはなく、悟空の頭が力なくずるりと傾いだ。

「・・・悟空?」

自分の肩口に顔を埋めたままの悟空の後頭部に手を回す。その時、なにか生暖かいものが三蔵の手のひらを濡らした。嫌な予感に心臓がぎゅっと締め付けられるのを感じながら、三蔵はその手を目の高さに持ってくる。三蔵の瞳に映ったものは、べったりと悟空の血で汚れた己の手。

自分を庇って倒れたもう一人の人の血と、悟空のその血が重なって見える。

あの時も自分の手は、大切な人の血で真っ赤に染まっていた。

ぐるぐると、過去と現在の出来事が目の前で交差する。なにか自分ではとても制御できないものが、音をたてて襲ってくるようだ。血の気が引いて指先から身体全体が冷えていくのを感じ、三蔵は助けを求めるかのようにその名を呼んだ。

「・・・ごくう、・・・悟空っ!!」

 

 

「2度と俺を庇おうなんて気、起こすんじゃねーよ。この馬鹿猿」

ベットの上に上半身を起こしたままの小猿に、三蔵は険を含んだ声で言った。ただでさえ不機嫌を絵に描いたような三蔵の、近年稀に見る機嫌の悪さに、僧侶達もここ数日は迂闊に三蔵に近寄ろうとはしない。誰だって命は惜しい。

悟空の頭には、真っ白い包帯がぐるぐるに巻かれていた。それを見るだけでも、三蔵はムカついてきて仕方がない。言いようの無い想いに、腸が煮えくり返るような気持ちだ。

「だってぇ・・・」

不満そうに唇を尖らすペットを、ぎろりと飼い主が睨みつける。悟空はその迫力に首を竦めて、恐る恐る三蔵を見上げた。

「『だって』じゃねえ。俺が、嫌なんだよ。気分悪ぃ」

三蔵は心底嫌そうに、整った顔を顰める。あの時宝物殿で三蔵に撃たれた夜盗の1人が、息も絶え絶えに三蔵の背後から彼を襲ってきた。とっさの事で悟空は相手を倒す間もなかった。三蔵の身体を抱え込んで、敵の鈍器から愛する人を守るのが精一杯だった。凶器は、三蔵を庇った悟空の頭に命中した。石頭が幸いしたのか、出血の多さの割には傷の方は大した事はなかったが。

今でも、あの時の事を思い出すと頭痛と吐き気がする。

同じシチュエーションだった。光明三蔵が自分を庇って死んだ時と。自分の非力さを噛み締め、自分の為にかけがえの無い人を失う苦しみ。またあの感情を味わうなんて。

だから、『大切』なものなんて持ちたくなかったのに。失いたくないものなど、持ちたくなかったのに。

そしてあの瞬間、どれほど自分が悟空を必要としているかを、自分自身に知らしめてしまった。見ない振りを決め込んでいた己の心に、直面してしまうはめになってしまった。『悟空を喪うかもしれない』という恐怖。

師匠の死に際の感情とシンクロしてしまい、じわじわと自分を侵食する想いに、狂いそうになった。あの時絶え絶えの息の下、微かに自分の名を呼ぶこの小猿の声が、耳に届かなかったら。

その上あんな風に、助けを求めるように、悟空の名を呼んでしまうなんて。

不覚だった。思い出すだけでムカツク。自分に腹が立って仕方がない。

「・・・ゴメン」

怪我はないものの、血の気の引いた三蔵の青白い顔に、悟空はしゅんと項垂れる。

三蔵を守ろうとしたのに、結果として三蔵に辛い想いをさせてしまったというのは、悟空も自覚しているらしい。それでも自分の行動が三蔵への愛情故だと理解して欲しくて、言い訳がましく上目使いに愛する人に訴える。

「でも、さんぞー幾ら俺がさんぞーの事、何よりも大切だって言っても、信じてくんないんだもん」

一層不機嫌さを増した紫暗の瞳が、じろりと横目に悟空を睨む。

「だから行動で判ってもらおうなんて馬鹿な事考えてたんじゃ、ねえだろうな」

「あの時は、そこまで考えてる暇ねえよ。身体が勝手に動いたんだからさ」

「・・・ふん」

面白くなさそうに呟くと、三蔵はくるりと悟空に背を向けた。

だから、こいつは馬鹿なのだ。いつでも後先考えず、本能だけで動いている。

守られて、その結果喪って。それで俺が喜ぶとでも思っているのか。本当に俺の事が大切ならば、『傍にいる』という約束を違えるマネはするんじゃねえ。どんなに『愛している』と言ったって、てめえが死んじまったら意味ねぇだろうが。馬鹿野郎っ!ヘンなところは俺の感情の揺れに聡いくせに、肝心のところがボケているんじゃ意味ねぇよ、と三蔵は心の中で声の限りに罵倒する。

「じゃあ、どうすれば信じてくれるのさ。俺が誰よりもさんぞーを愛しているって事」

そんな荒れ狂う三蔵の心中に気づきもせず、悟空は相も変わらずのん気にラブコールを繰り返す。

「ンなの、知るか」

「さんぞぉぉ」

冷たく切り捨てる飼い主の言葉に、小猿は情けないほど哀れな声を上げた。

言葉で言っても信じてもらえず、態度で示しても怒られる。頑なな想い人を前に悟空は前途多難な自分の恋の行く末を案じる。でも、好きなのだ。しつこいと言われても、信じられないと足蹴にされても。それでも誰よりも三蔵が好きなのだ。「・・・いーよ」

自分に背を向けたままの三蔵の後姿を、暫し大きな金瞳でじっと見つめた悟空は、ふぅっとため息をつくと、それでもふてぶてしく言ってのけた。

「じゃあこれからも、さんぞーが判ってくれるまで毎日毎日『愛しているよ』って言い続けるからさ」

「・・・毎日聞いてたら、有り難味も真実味も失せるだろーが」

「だって言わなくちゃ、もっとさんぞー信じてくんないじゃん」

「うるせんだよ―――!!」

三蔵は思わず愛用のハリセンを振り上げるが、相手が頭に傷を負った怪我人だという事を思い出す。流石にこれ以上頭を打ったら、石頭の悟空とはいえ無事ではすまないのではないか?

条件反射で身体を縮込ませて来るべき衝撃に備えている自分の馬鹿猿に、三蔵は不本意ながらハリセンを仕舞い込む。これ以上馬鹿になったら「さんぞーの為だから」と、またどんな暴挙をしでかすか判らない。

三蔵が世界の全てで、三蔵だけを求めていて。三蔵だけしかその金色の瞳に映さない、自分だけの馬鹿猿―――。

そう思うと自分の愛情を信じてもらえないと項垂れる猿が、なんとなく哀れに思われて。つい、言う気のなかった一言がぽろりと三蔵の口から零れてしまった。

「・・・爪の先くれえは、信じてやってもいいぞ」

しまったと思った時は、もう遅い。しゅんと、しょげていた筈の小猿は、ぱっと目を輝かせて愛する飼い主を見遣る。「えっ!? マジ!? ホントにっ!?」

あまりにも弾んだ悟空の声に、かーっと羞恥心が湧きあがってきた三蔵は、たれ気味の紫暗の瞳をきっと吊り上げて、能天気なペットを怒鳴り散らす。

「小指の爪の先くれえだけだよっ!」

悟空はぱっと右手を目の前に出すと、じーっと穴があくほど自分の小指の爪を睨みつけた。

「・・・これだけ?」

不本意ながらもかけてやった一言に、ケチをつけた生意気なペットに、三蔵の額に怒りの青筋がばっと浮かんだ。頭をぶっ叩く事が出来ないかわりに、三蔵は悟空の頬をぎゅっと力一杯捻り上げる。

「うるせえ!! てめぇ、文句あるってのかっ!? ああっ!?」

「な、なひよ! うん、なひれすっっ!! ごめんなひゃいっ!」

ぎゅうぎゅうとつねられてたあまりの痛みに、金色の瞳に涙をぼろぼろ浮かべながら、小猿は必死に乱暴な想い人に謝罪の言葉を叫ぶ。

「ったく生意気言ってんじゃ、ねえ。この馬鹿猿」

「ふわーい」

痛むほっぺたをさすりながら、悟空は不機嫌そうな飼い主を見上げた。三蔵はふんっと鼻を鳴らすと、懐からマルボロを取り出して少し厚めの唇にそっと咥える。そんな三蔵の様子を眺めながら、悟空は誰よりも愛する人からもらった言葉を、心の中で反芻する。

「・・・うん、そうだよな。これだけでも三蔵が信じてくれたんだから、一歩前進だよなっ!」

そう言うと、悟空はにぱっと向日葵を思わせる満面の笑顔を三蔵に向けた。到底自分が悟空に向ける事など出来ない、邪気のない笑顔。

(・・・思った通りじゃねえか)

世にも幸せそうな小猿のへらへらとした笑顔を前に、三蔵の眉間の皺が三割方増えた。猿の分際で、あんな笑顔のひとつで、自分の中にずかずかと入り込んでくるなんて。ふざけたヤローだ、腹の立つ。これで「お前の事を信じている」なんて言った日には、どれだけつけあがるが判ったものではない。

あくまで自分が飼い主で、主導権を握るのも自分なのだ。

悟浄や八戒達からすれば、「ンな事言ったって、三蔵はもう悟空に捕まっているのに」と言ったところだろうが。まだ、三蔵自身それを認めたくはない。いや、出来るものなら永遠に認めたくはなかったのに。

あくまで『悟空が三蔵を必要としているのだ』と。自分にとって、悟空は『うるさいペットでしかない』のだと。そう信じていたかったのに。

「ガタガタくだらねえ事言ってねえで、いい加減寝ろ。食って寝りゃ、ンな傷なんてすぐ塞がっちまうだろうよ」

三蔵は悟空に背を向けたまま、不機嫌そうに、それでいて悟空にだけは判る、ほんの少しの優しさを声に滲ませてこの話は打ち切りとばかりに言った。

「昨日薬でずっと寝てたんだもん。眠くなんねえよ」

無愛想ながらも、それでも三蔵が自分の身体を心配してくれる事を感じ取ったのか、小猿は甘えるように飼い主にお願いしてみた。

「・・・さんぞ、添い寝してくれる?」

「はぁ?」

突然の小猿の戯言に、思わず素っ頓狂な声を上げて悟空を振り返ってしまった三蔵に、悟空は最後の一押しとばかりに上目使いにねだってみる。

「さんぞーが傍に居てくれたら、寝れそうな気がする」

甘えんじゃねえっ! だったら死ぬまで起きていやがれっ、と叫びそうになった三蔵だったが、甘えながらも、それでもおずおずと三蔵のご機嫌を伺うような悟空の様子に、何故か毒気を抜かれてしまった。

でかくなったように見えても。そして、自分を抱く時はいっぱしの雄の顔を見せてはいても。こういう時は、拾ってきた時のガキの頃と少しも変わらない。

「・・・仕方ねぇな」

甘い、甘過ぎると思っていながら、それでも悟空の願いを最後には受け入れてしまう自分に、心底腹を立てながら。それでも、三蔵の口は三蔵の意思とは関係なく、またしても不本意な言葉を零していた。

「・・・今回だけだぞ」

言ってはみたものの、まさか三蔵が「うん」と言ってくれるとは思ってもみなかった悟空は、ぽかーん、口を開いたまま暫く最愛の人の顔を見つめていたが。やがてこれ以上ない位の、ぴかぴかの笑顔を惜しみなく三蔵に向けて、自分の飼い主を動揺させたとは思いもしなかったのである。

 

 

悟空は小さな身体で、三蔵を包み込もうとするかのように、彼の背中に腕を回して抱き寄せる。最愛の人の体温に安心したのか、「寝れねえよ」と言っていたのが嘘のように、悟空は三蔵の甘い匂いのする金糸の髪に鼻づらを突っ込むと、あっという間に夢の世界に旅立って行った。

くうくうと、幸せに眠る小猿。寄り添った時、悟空の髪からは太陽の匂いがした。

「・・・太陽は、てめぇの方だろーが」

地から生まれた小猿は、どこまでも大きくてあたたかい。包み込まれて心地よいと感じてしまうのは、きっと気のせいだろう。

そう思いながら三蔵は、そっと悟空の頭を自分から剥がして、じっと見つめる。

「大げさなんだよ。派手に血なんか出しやがって・・・」

微かに血の滲んだ包帯を何度か指先で撫でた後、三蔵はそっと傷のあたりにくちづけた。三蔵を守ろうとして負った、名誉の傷。だからと言って、こんな事は2度とゴメンだけど。今回だけは、ぴったりと寄り添って幸せそうに眠る、馬鹿面に免じて許してやってもいい。自分を死ぬほどの不安に陥れた事も。そしてその為に、蓋をしておいた悟空への想いに直面するハメになった事も。一度くらいは大目に見てやってもいいだろう。

「・・・こいつは馬鹿だからな」

そんな事を考えているうちに、睡魔が襲ってくる。このところ、なんだかんだと言って悟空に付きっきりだったので、睡眠不足だったのだ。

目が覚めたら、この馬鹿猿も怪我なんか無かったかのように、元気になっているだろう。健康だけが取り柄だからな、コイツは。そうしたら、2度とこんな風には甘やかさねぇぞ。何といっても、今は怪我人だからな。仕方ねぇんだよ。

ぼんやりと誰に言うとも無くそう呟いた三蔵は、無意識のうちに悟空の頬に自分の頬を寄せて、そのまま深い眠りに引き込まれていった。

 

                                                                                                                                                                          おわり

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