「三蔵、こんな夜更けにどちらにお出かけですか?」
僧侶達が寝静まった頃、そっと裏門から寺院を抜けた三蔵は、いきなり眼前で照らされたヘッドライトの眩しさに目を細めた。逆光で輪郭がぼんやりと見えるだけだが、その見慣れたシルエットは正しくジープに乗った二人組。
「三蔵サマ、夜風は病み上がりの身体の悪いわよん」
「……うるせえ。てめえらこそこんな時間に何してやがる」
「いえ、何か僕も悟浄も目が冴えて眠れないんですよ。だから深夜のドライブでもどうかなー、なんて思って三蔵をお誘いしに来たんですけど」
「深夜のドライブだと?」
「そ、ちょっと遠出して五行山までね」
三蔵はあからさまに嫌そうな顔をして、舌打ちをする。
「……ちっ、どいつもこいつもおせっかい野郎どもが」
「何の話ですか?」
「そうそう、俺達はただ三蔵サマとドライブしたいだけよ。な、ジープ?」
悟浄の言葉に、車の姿をしたままのジープがきゅいっと、鳴く。
「ジープも久し振りに、三蔵を乗せたいって言ってますよ」
「……勝手にしろっ」
小さなため息をひとつついて不機嫌そうに言い放つと、三蔵は長い旅の間の指定席であった助手席に身体を沈める。「三蔵、具合悪くなったらすぐに言って下さいね」
「うるせえんだよ。余計な事言ってんじゃねえ」
「はいはい、判りました。じゃあ、少し飛ばしますから」
そう言って八戒はアクセルを強く踏んだ。身体に響く振動に、三蔵は微かに眉を顰めて唇を噛む。また少し熱が出てきたようだ。
痛みをかみ殺して静かに目を閉じると、心の中でそっと呟いた。
……悟空……。
肌を刺すような冷気を、悟空は自分の身体を両腕で抱きかかえる事によって何とかやり過ごそうとした。あの頃、微かな温かさを自分に与えてくれた長い髪も、今はない。
以前閉じ込められていた五百年の間、何の変化も見せなかったこの岩牢は、やはり十年前に三蔵と共にこの場を去った時と少しも変わっていなかった。岩肌から染み出す湧き水も、じめじめと湿った空気も、耐えがたいほどの孤独感も。
よくも自分はこんな所で五百年の歳月を過ごせたものだ、と悟空は内心驚きを隠せない。
きっと、知ってしまったから。自分が抱きしめた人の身体の温かさを。自分がいる事を許された場所の心地よさを。自分を見てくれる、愛しい人の瞳の美しさを。
知らなければ、耐えられたのに。あんなにもあたたかい世界を知ってしまったら、こんな冷たい場所はとても耐えられない。
『 』
心が無意識の内にたった一人の人の名を呼びそうになって、慌てて悟空は湧き上がってくる想いを握り潰す。
呼んだら駄目だ。ちょっとでも気を抜いたら、すぐにでもあの名を呼んでしまう。あの誰よりも愛しくて、何よりも大切な人の名を。そうしたら、その『声』は三蔵に届いてしまう。自分でも知らない間にずっと呼び続けていた、十年前のあの頃のように。
それとも、もう自分の『声』なんか、彼は聞こうともしないだろうか。そんな煩わしいものなど聞きたくないと、心の耳に蓋をしているかもしれない。
そんな風に考えて、悟空は自嘲気味に口元を歪ませた。そう、自分には三蔵を呼ぶ権利なんて、もう無いのだ。
大人になったつもりでいて、三蔵に愛されていると勘違いして、三蔵を守っている気になって。自分で最愛の人を傷つけてしまった。あんな風に力ずくで抱くつもりなんて、なかった。
あのプライドの高い三蔵が、まるで女のように身体を開いてくれるのが嬉しくて、そしてとても申し訳なくて。だから、いつでも宝物のように扱ってきた。三蔵が自分の腕の中で、快楽と安心感だけを得られるようにと。三蔵が自分を受け入れた事を後悔しないように。そして、自分を愛してくれるように。
いつの間にか自惚れていたのかもしれない。三蔵が自分だけのものになった錯覚を覚えて、三蔵も自分を愛してくれているのだと思い込むようになって。そうして、自分のエゴで三蔵を傷つけてしまった。
あの時、どうしても自分を止める事が出来なかった。三蔵が自分を裏切ったかのように思えて、三蔵をめちゃめちゃにしてやりたいと思った。そんな自分に嫌悪感を覚えて吐きそうになる。
こんな気持ちを持つなんて、それだけで三蔵の傍にいる事など許されないと思う。
どうして、昔のように優しいだけの気持ちでいられないんだろう。どうして、誰よりも大切にしたいと願う人を、傷つけてしまえるんだろう。
「俺、やっぱ、どーぶつ並だよな」
ぽつりと呟く悟空の瞳から、ぽろり、と大粒の涙が零れ落ちる。
こんな自分はすぐにこの世から消えるべきなのだろう。どの道三蔵がいない自分の人生なんて、そんなの生きている価値がないのだから。さっさと死んでしまえばいいんだ、と悟空は思う。三蔵だって、自分を傷つけ貶めた悟空を、決して許しはしないだろう。
それなのに、それでも自分で死ぬ事が出来ないのは―――。
三蔵がいるから。三蔵が今、生きてこの世界にいるから。
だから死ねない。死ぬ事なんて、できやしない。
(だって、あの世には三蔵、いねーじゃんかよ)
もう二度と逢えないのに、殺してやりたいと思う程憎まれているだろうに。それでも、諦めきれない。忘れる事など出来ない。
「俺って、やっぱりすげえ馬鹿だよな」
うずくまり、立てた膝に顔を埋めた悟空がくぐもった声で誰に言うともなく呟く。
「ンな事、今頃わかったのか」
懐かしい人の声が聞こえる。
とうとう幻聴が聞こえてきたのかと、顔を伏せたまま悟空は苦笑した。
「幻でも何でも、いいけどさ。三蔵に逢えるんなら」
「誰が幻だ。寝言は寝て言え、馬鹿猿」
容赦のない声に、悟空はゆっくりと顔を上げる。
白い法衣に、双肩には天地開元経文。きらきらと輝く黄金の髪は、まるで太陽でつくったみたいだ、と悟空は思う。あんなにも憧れてた太陽が、自分の目の前に現れてくれたのだと。
(俺、前にもこんな事思ったよな)
「自分から飛び出して行って、煩く俺を呼ぶんじゃねーよ」
「俺、呼んでねエけど」
「嘘だね、俺にはずっと聞こえてたぜ。うるせーんだよ、いい加減にしろ」
そう、同じ遣り取りをした。十年前、この場所で、この人と。
そうして、差し出された白い手も――それが、少年の手から大人の手に変わった事以外は――まったく同じ。
悟空は、ぼんやりとそんな風に考えながら細く長い三蔵の指先を見つめる。
「仕方ねえな……」
誘われるようにして自分の手を三蔵に伸ばした悟空は、微かに彼の指に触れた瞬間、びくりと身体を震わせて慌てて自分の手を引っ込める。
「悟空?」
「ダメっ! 俺、三蔵に触っちゃダメなんだっ!」
悟空は顔を引き攣らせて、牢の奥に後退りする。
「おい」
妙に怯える悟空を不審に思い、三蔵が岩牢の中に一歩足を踏み入れると。
「俺に近寄っちゃ、ダメだっ!」
滅多にないほど切羽詰まった声で、悟空が叫ぶ。
「俺、三蔵傷つけちゃうから。きっとまた三蔵に酷い事しちゃうから」
だから、俺に近寄らないで。もうこれ以上傷つけたくないから。そして、もうこれ以上嫌われたくないから。
「だから、ダメなんだよ。俺、三蔵の傍にいられないんだから……」
ぽた、ぽたと零れた涙が大地に吸い込まれていく。しゃがみこんで顔を伏せた悟空のくぐもった嗚咽が岩牢内に低く響く。暫く黙ったまま悟空の様子を見ていた三蔵が、いきなり悟空の胸倉を掴み上げると、彼の頬に強烈な一撃を見舞った。悟空は後ろに吹き飛んで、強かに背中を岩肌で打つ。
「……痛っ」
口腔に広がる鉄の味に口の端をぬぐうと、手の甲にうっすらと血が滲んでいる。悟空はぐったりと背を壁に預けたまま、三蔵が手を上げるのは尤もだと、続く罵詈雑言を俯いたまま待つ。
しかし一向に悟空を攻める言葉が三蔵の口から出てこない事を不審に思った悟空が、そっと顔を上げると。 蒼白な額に脂汗を浮かべて、不自由そうな左腕を右手でそっと庇う三蔵の姿が視界に飛び込んできた。
「さんぞ……、怪我してんの?」
「……どっかの馬鹿が、俺を守るなんて大言壮語しておきながら、さっさと俺の傍からずらかっている間にな」
微かに苦痛を滲ませた三蔵の声に、悟空は心臓をぐっと握り潰されたような気がした。
「だって、だって俺が傍にいたら、三蔵を傷つけちゃうから……」
「ざけんなよ。あれくらいの事で俺が傷つくとでも思っているのか」
「で、でも……」
「それとも、俺を愛している、ずっと傍にいるってのは、所詮その場限りの言葉に過ぎないってか?」
「そんな事ないっ! 俺は三蔵の事、誰よりも何よりも愛してる!」
悟空は痛む背中も気にせずに、思わず三蔵に食ってかかる。
「愛しているから……これ以上傷つけたくない。傍にいたら、また三蔵が俺を愛してくれているかも、なんて自惚れて三蔵を縛りつけちゃうかもしれない……」
だから、俺なんか三蔵の傍にいない方がいいんだ。項垂れてそう呟く悟空の頬に、熱い手のひらがそっと触れる。その手の燃えるような熱さに、悟空は金瞳を大きく見開いた。
「さんぞっ、すげえ熱……っ」
「傍にいていいかどうかを決めるのは、てめえじゃねえだろう。決めるのは、この俺だ」
「……さんぞ……」
「俺がてめえをここから連れ出した。そして十年もの間傍に置いといた。それは、俺の意思だ」
「……三蔵」
そうだ。悟空がどうしても傍を離れようとしないから、なんてずっと自分に言い訳してきた。悟空が自分を求めてくるから、仕方なく与えているのだと。決してこの関係は、自分の意思ではないのだと。
そんな風に流される自分ではないと、心の奥底で判っていながら、悟空に惹かれていく自分を見ない振りをする為に。いつか悟空が自分の許を去っていく時、喪失感に心が壊れてしまわないように。ずっと自分に言い聞かせてきた。
できるものなら、今だって認めたくは無い。悟空を必要としていると、悟空を愛していると。
けれどどこかで認めなければ、また繰り返してしまう。自分の力に自惚れて、何よりも大切な人を守り切れずに喪ってしまったあの忌まわしい出来事を。
「強くおありなさい。玄奘三蔵」
あの方の最後の願い。本当の願い。それは失う事を恐れずに自分が本当に望むものに、自らから手を差し伸べていくという事なのだろうか。いつの日も悟空が真っ直ぐな瞳で、自分に駆け寄ってきたように。
「さんぞ……。俺、三蔵の傍にいたい。三蔵がいいって言ってくれるなら……傍にいたいよ。三蔵が俺の事嫌いでも、俺、三蔵の事愛している」
三蔵の手のひらの感触を頬に受けたまま、悟空がぽろぽろと大粒の涙を零しながら小さく呟く。
「……誰が、てめえを嫌いなんて言った」
「え?」
「……嫌いな奴にも、何とも思っていない奴にも、触れさせる気なんかねえんだよ。俺は」
「……さんぞ……」
そう、触れる事を許したのは悟空だけ。
悟空だからこそ、全てを許した。三蔵が自分の心を偽っていた時でさえ。
「俺を傷つけたくないなら……」
ふいに目の前が暗くなった。背筋に悪寒が走り膝の力が抜けていくのが判る。朦朧としていく意識の中で、今まで決して口に出来なかった願いを小さく呟いた。
「……傍にいろ」
「さ、三蔵っ?」
がくんと膝を折り傾く三蔵の身体を、間一髪で悟空が抱きとめる。きつい紫暗の瞳は苦しげに閉じられ、薄く開かれた唇からは浅い呼吸が、忙しなく紡がれていた。衣服を通してさえ伝わってくる三蔵の身体の燃えるような熱さに、悟空は顔を引き攣らせて何度も愛する人の名を呼ぶ。
「三蔵っ、目開けてくれよっ! 三蔵、さんぞぉ――っ!」
過去に何回か目の当たりにした、傷ついた三蔵の姿が悟空の脳裏を駆け巡る。
六道の槍で腹を刺し貫かれて、血の海に横たわる三蔵。
蠍女の毒に倒れて、自分の腕の中で意識を失っていた三蔵。
それから、それから……。
「イヤだ……」
ぽつりと悟空が呟く。じわじわと心の底から湧き上がる喪失感に、悟空は嘗てないほどの恐怖を覚える。失ってしまうのだろうか。今度こそ、本当に……?。
「イヤだよ。俺を置いて逝っちゃ、ヤだよ。三蔵――っ!」
金色の瞳から溢れ出る涙が、三蔵の頬を濡らしていく。三蔵の身体を力いっぱいに抱きしめて、悟空は心の底から絶叫した。
乾いたタオルの感触に、三蔵はうっすらと瞼を上げた。見慣れた自室の天井。そして心配そうに自分を見下ろす、見慣れた自分の猿の顔。
「三蔵、気分どお?」
「……ああ」
熱の篭って掠れた声が、微かに三蔵の唇から漏れる。身体中を蝕む熱の不快感は当分去る気配はないが、それでも随分と頭がはっきりとしてきたし、世界がぐるぐると回るような気分の悪さも、なくなってきた。
「ゴメン、起こしちゃって。でもすげえ汗かいてたから」
そう言って悟空は丁重に三蔵の額や首筋を乾いたタオルで拭いていく。
「腹減らない?」
「ああ」
「一応、おかゆ用意してあっから、食いたくなったら言ってよな」
「ああ」
この二週間、悟空は付きっ切りで三蔵の看護をした。あの日、ただ三蔵を喪いたくない一心で、意識を失った三蔵を抱きかかえて五行山を下りた。途中何度も木の枝で身体中を傷つけ、小岩や木の根に足を取られて転びそうになったが、それでも三蔵には傷ひとつ負わせなかった。
どの道を選び、どれだけ走り続けたのか悟空にもよくわからない。運良く山の麓で三蔵を待つ悟浄と八戒の姿を見つけた時は、悟空は満身創痍で精魂尽き果てていた。
まだ完全に傷が癒えていないのに無理をしたのが祟って、三蔵の容態は悪化していた。始めの四、五日はとてもジープで移動できる状態ではなく、五行山近辺の村に宿をとって、そこで三蔵の熱が下がるのを待ち、それから長安に戻った。しかし長安までの道のりでまた病状がぶり返し、三蔵は高熱の中、何日も夢と現の境を彷徨っていた。
しかし、うっすらと目を開けるといつもそこには、自分を心配そうに見守る懐かしい金色の瞳があった。それを確認すると安心した表情で、また眠りに落ちていく。
三蔵の容態が危機を脱したのは、長安に戻って十日もたってからだった。
「高熱で体力をかなり消耗してっから、起き上がれるようになったら少しずつリハビリしてくって」
三蔵は今はまだ自分の足で歩く事もできない。八戒から、自分がいない間に三蔵が負った怪我はかなり酷いものだったとあとで聞いた。本当だったら、まだ安静にしていなければならない時期にジープに揺られて五行山になんか登って……。
(俺が馬鹿な事やったから、また三蔵をこんな辛い目に合わせちゃった……)
熱でいつもよりも朱みの増した肌を、悟空は悲しげに見つめる。
「なに、くだらねえ事考えてんだ」
掠れた三蔵の声にはっとなる。熱の為に潤んだ紫暗の眼差しが、その強い力を失う事なく真っ直ぐに悟空を射る。ヘタな誤魔化しは三蔵には通じない。それでも悟空はそれを口にしていいものか暫く悩んで、やがてぽつりと呟いた。
「俺、ほんとに三蔵の傍にいてもいいのかな?」
三蔵は傍にいろと言ってくれた。そして、自分自身何よりもそれを望んでいる。けれど自分が三蔵に対してした仕打ちが、悟空の胸に小さな刺として残っている。
またいつあんな風に三蔵を傷つけるかもしれない、と思うとそれが悟空は恐ろしくて仕方がない。
「……俺は自分で結論を出した。あとはお前の自由だ」
先の見えない未来を恐れるよりも、今必要なものを、自分が心から望むものをこの手で掴む事。
師・光明三蔵を喪って十数年、やっとここまで辿り着いた。これからも愛するが故に、お互いが傷つけ合う事もあるだろう。いつかまた、失う事の恐怖を味わう日が来るかもしれない。それでも……。
悟空の手があれば、今度こそ得られるだろう。師匠が自分に最後の瞬間まで願っていた、本当の『強さ』を。
三蔵の『想い』が伝わってくる。その眼差しと同じように、真っ直ぐに悟空の心に伝わってくる。
泣きたくなる程嬉しくて、泣きたくなる程、切なくて。悟空は込み上げてくる嗚咽を噛み殺す。
「俺、三蔵に五行山から出してもらって、新しい世界をもらって。そこから更に、広い世界をみる事ができた。そして……やっぱり俺の望む場所は、三蔵の傍だよ。どんなに広い世界を見てきても、それでも、俺が戻りたいって願うのは、三蔵の傍なんだ。俺が自分の意志で選んだ、俺の『居場所』なんだ」
一言、一言悟空は噛み締めて言う。自分の心が間違わずに三蔵に伝わるようにと。
「……俺、三蔵の傍にいる。ずっと、ずっと。今度こそ、ぜってー離れねえよ」
もう二度と、何者にも三蔵を傷つけさせない為に。大切なもの失う事によって傷つく事を恐れている三蔵を、決して一人にしない為に。そして三蔵から離れては生きていけない、自分自身の為に。
「ずっと、ずっと傍にいるからね」
そう言ってじっとりと汗ばんだ額にそっと手のひらを置く。
「……冷たくて、気持ちいい……」
悟空の言葉を、想いを、無言のうちに噛み締めた三蔵は、そのまま自分の額に触れる悟空の手のひらに全ての感覚を委ねる。普段は三蔵よりも体温の高い悟空の手が冷たく感じられる。まだ、熱がかなり高いのだろう。
「じゃ、こうしていてあげる。三蔵が眠るまで、ずっとこうしているよ」
そして、三蔵が眠っている間もずっと傍にいるから。
「だから、安心して寝ていいよ」
三蔵は小さく頷くと、嘗てない程満たされた自分の心を感じながら、静かに目を閉じる。
目覚めた時も一人じゃないから。悟空は決して傍を離れないから。
やがて三蔵は穏やかな寝息をたてて眠りについた。その寝顔をじっと優しい眼差しでみつめていた悟空はそっと、静かに愛する人の瞼にくちづける。
遠回りして、やっとここまで辿り着いた。そして、これからもまた歩んでいく。
これからも二人で。ずっと、ずっと、二人で。
愛しい人へ、この気持ちが届くようにと願いを込めて。
おわり